メタモルフォーゼのなつ

とみやすよう

 じゅくこうしゅうかえみちじんじゃうらからハーモニカのおとこえた。陽葵ひまりはどきりとしてあしめる。
 あたりはもうくらくなりかけていたがじんじゃうらはやしではまだセミがワンワンいている。そのこえじってたしかにハーモニカのおとこえたのだ。
 ゆうれい......? まさかね、とおもったがすじがひやりとする。へいがくしゅうまちのおとしりからいたはなしがよみがえる。
「あといっしゅうかんせんそうわるというときですよ。ほんぐんしょうもどちゅうじんじゃうらっこちてね、むしりをしてたさんにんきこまれたの。」
 くなったさんにんなか一人ひとりは、はなしてくれたおばあさんのあにだった。おばあさんはそのときまだよっつ。おにいさんはじゅうさんさい陽葵ひまりおなどしだ。
やさしくて、ハーモニカの上手じょうずあにだった。」とおばあさんはっていた。
 ゆうれい......のはずはない。でもだれがハーモニカなんかいているんだろうとになって、陽葵ひまりじんじゃうらはやしをのぞきにってみた。
 はやしわきどうがいとうが、かげのベンチにひかりげかけている。そのベンチにすわってハーモニカをひとかげえた。ハーモニカのメロディがさっきよりずっとはっきりとこえる。どうやらオールディーズのきょくのようだ。それに、どうやらあまり上手じょうずではないらしい。しょっちゅう、っかかったり、つっかえたりしている。
 ちかづいていくとあしおとづいたのか、ハーモニカのおとがやんだ。
 がいとうひかりなかかおげたそのたとたん、陽葵ひまりは「あっ。」とこえげた。
 ハーモニカをいていたのはもりいつきおなじクラスのだんだった。陽葵ひまりいつきしょうがっこうべつべつだったが、ちいさいころおなようえんかよっていた。
あいはら陽葵ひまり、こんなとこでなにしてんの?」と、フルネームでまえんでいつきしつもんした。
じゅくかえり。いつきくん、じゃなくてもりくんこそなんでここでハーモニカなんかいてんの?」
 陽葵ひまりがたずねるといつきなかのハーモニカと陽葵ひまりかおくらべて、ちょっとだまりこんだ。
せんそうわるちょっとまえ、ここでどもがんだのってる?」と、やがていつきいた。
ってるよ。」と陽葵ひまりはうなずく。
ほんぐんこうっこちてきて、むしりしてたさんにんきこまれたんでしょ? へいがくしゅうのとき、くなったおとこいもうとのおばあさんがはなしてくれた。」
 いつきがまたくちひらく。
んだのはさんにんだけど、むしりしてたのはにんで、たまたまはなれたとこにいてたすかったのが、おれのひいじいちゃんだ。ひいじいちゃんはきょねんあききゅうじゅうよんさいんじゃったけど、それまでまいとしはちがつになると、ここにハーモニカきにてたんだ。......で、くなるまえにこのハーモニカ、おれにくれたんだよ。」
「ハーモニカが上手じょうずだったの? ひいおじいちゃん。」
 かたのハーモニカをつめていつきがうなずく。
「うまかったよ。イツキのほうがもっとうまかったってってたけど。」
「え? イツキっていつきくんのこと?」
「ちがうんだな。んじゃったともだちみょうだよ。いつゆういちっていうんだって。べつねらったわけじゃないだろうけど、ひまごのおれはいつき。」
「そっか。なんか、せきにんていうかつながり、かんじちゃうね。だから、ひいおじいちゃんのあとごうって......。やっぱ、りっぱだわ。」
 ハーモニカはだけど、ということみこんで陽葵ひまりはそうった。
「ここでハーモニカいてるのには、ほかにもゆうがあるんだけどな。」といつきう。
いえいてると、『くそ。』って、めちゃめいわくがられるし、それに、もうひとつ。このかんここにいると、いいものれるから。」
「いいもの?」と、おもわず陽葵ひまりかえした。
「セミの。」
 きゅういきおいこんでいつきこたえる。
「メタモルフォーゼだよ。めんしたからてきたようちゅうからやぶってだいへんしんするとこってたことある? すっごくきれいなんだ。」
 いつきかがやいているのをて、陽葵ひまりはちょっとわらってしまった。
「やっぱ、むしきなんだね。」
「うん......まあ......。」
 わらわれたとおもったのかまずそうにをそらすいつき陽葵ひまりいかけた。
「あのさ、ようえんねんしょうぐみのとき、あたしにプレゼントくれたのおぼえてる?」
 いつきはぎくりとしたようだった。
なんだっけ?」とあんそうにくびをかしげる。
すなまったビニールぶくろ。『ひまりちゃんにあげる。』ってうから『これ、なに?』っていたら、『アリ。』だって。『アリつかまえたから、あげる。』って。まれてはじめてだんからもらったプレゼントがアリだよ、ふくろめの。あと、セミのがらつくったネックレスとか、みどりいろのカメムシとかもくれたよね。」
 さらにつづけようとする陽葵ひまりことを「あっ!」とさけんでいつきさえぎった。
なに? どした?」
 ぎょっとする陽葵ひまりに、いつきまえのクヌギのゆびしてみせる。
「ほら、そこ。セミのようちゅう。」
「えっ? どこ、どこ?」
 ベンチからがったいつきあゆるクヌギのした陽葵ひまりちかづいていった。
「しいっ。」とあいするいつきよこからそっとのぞきむと、ごつごつしたみきちゅうでじっとしているようちゅうえた。
めんからてきて、ここまでのぼったんだ。」と、ひそひそごえいつきった。
「もうじきメタモルフォーゼがはじまるからおどろかさないようにしずかに。じゃはいるとちゅうするのやめて、んじゃうから。」
かった。」と陽葵ひまりも、とびきりのひそひそごえおうじる。きでセミのけんがくすることになってしまった。セミのがらのネックレスをくれただん二人ふたりで。
 いつきったとおり、ようちゅうもなくへんしんかいした。ちゃいろようちゅうなかれて、そこからうすみどりがかったしろようせいみたいなセミのせいちゅう姿すがたあらわしたとき、陽葵ひまりおもわず「きれい。」とささやいた。ねっしんまもっていたいつきが、かがめていたこしばし「だろ?」ととくそうにわらう。ようえんのときクラスでいちばんちいさかったいつきしんちょうがとっくにぶんしていることにづいて陽葵ひまりはどきっとした。
「メタモルフォーゼだ。」
 陽葵ひまりのつぶやきに「なに?」といつきくびをかしげる。いつのまにかだいへんしんをとげていたおさななじみから「なんでもない。」とをそらし、陽葵ひまりしつもんする。
「さっきいてたの、なんきょく?」
「スタンド・バイ・ミー。」といつきこたえる。
「あ、ってる。いてみてよ。」とうと、「だめ。まだれんしゅうちゅう。」というへんかえってきた。「それにセミのじゃになるし。」
 セミにをつかういつきのことがおかしくて、陽葵ひまりわらいたくなった。はやしにたまるねっをかきぜてゆうれのかぜわたる。はやしのこずえがさわぐ。
いつきくんのひいおじいちゃんてさ、んじゃったともだちのことおもすためにまいとしハーモニカいてたのかな?」と陽葵ひまりうと、
「『おまえたちのことわすれないぞ。』っていうなんだってさ、ハーモニカくのは。」といつきこたえをかえした。
「そっか。」と陽葵ひまりはうなずく。「だからこんいつきくんがハーモニカくんだね。そのたちのことわすれないように。」
 しわくちゃのしろはねばそうとしているセミをつめながら陽葵ひまりおもっていた。
 わたしおぼえておこう、と。
 んだたちのことを。せんそうのことを。そして、今日きょうなつのメタモルフォーゼのことを。
 いつのまにかセミのこえはやんでいた。

とみやすよう

どうぶんがくさっちょしょに「やまんばやまのモッコたち」「ぼんまねき」「さくらのたに」などがある。

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