ひとめいわくをかけない

のりしろゆうすけ

 ミノルくんとぼくはいくえんからのなかしで、今年ことし、そろってろくねんせいになった。今日きょうよう、ミノルくんのいえあそんでいたけど、はやめのおひるはんべてすぐにそとされてしまった。
 きんじょいけはたちいさなもりだらけ。おおきなUこうえんあそぼうかということになって、いけだんあいだけて、はたけなかみちく。のうぎょうようひろはたけじゃなくて、きんじょひとたちがこぢんまりとやっているところだ。ざらしののうりょうぶくろみずをためたふるよくそうがそこらじゅうにあって、けっこうてきとうかんじ。
 はんぶんほどいったあたりで、とおくからあるいてくるちいさなおんなえた。なにっているけど、かすれごえこえづらい。ちかづくうちに、はっきりこえるしゅんかんた。
「おにいちゃーん、どこー。」
 しょうがっこうていがくねんぐらいだけど、がっこうではたことがなかった。ミノルくんがぼくをひじでつついてった。
迷子まいごかな?」
 ミノルくんは、いつもさがすものをさがしている。きょねんしゅうぶんからだ。あの、ぼくたちはリードをきずってあるいているとしりの迷子まいごけんつけた。リードをっていえをさがし、きんじょひとおしえてもらって、とうとうぬしさんにわたした。よかったんだけど、それがよくなかった。あれらい、ミノルくんはなにかをさがすことにがなくなってしまったのだ。
 ちなみに、ぼくはそうでもない。でも、こまっているひとがいたらきょうりょくしなきゃとはおもう。だからこんかい、ミノルくんがすっんでいくのはなっとくだった。
迷子まいごになったの?」とミノルくんがこえをかける。
 おんなまった。よこに、にごったみずがたっぷりたまっているちいさなよくそうがあって、そのふちとおなじくらいのたかさからぼくらをげる。きべそで、へのくちむすんだままくびった。
「じゃあ、おにいちゃんが迷子まいご?」
 へんしつもんをするミノルくんにまたくびってから、おんなった。
「かくれんぼ。」
 ミノルくんはざんねんそうなかおをしたけど、しつもんつづけた。
つからないんだ?」
 おんなはこっくりうなずく。
「もしかして、ほんとにいなくなっちゃったとか?」
 おんなかおがさらにゆがんで、ぼくはあわててくちはさんだ。
「ねえ、どこまでとかいつまでとか、かくれんぼのルールはあるの?」
はたけのとこまで。」とおんなこたえた。「わたしだんにもどったらおしまい。おにいちゃんがてくる。いつもそう。」
「じゃあ、このままけばえるんだ?」
 おんなはまたうなずいて、そのままかえりもせずあるいていった。ぼくたちはまったまま、しばらくそのうし姿すがたていた。
迷子まいごじゃなかったか。おしかったなあ。」
「おしいことはないけど。」
「でも、これでそのおにいちゃんってのがてこなかったら......。」
 どうやら、まだあきらめていないらしい。とはいえ、ぼくもしんぱいではあった。どんどんちいさくなるうし姿すがたつめながら、おにいちゃんがあらわれるところまでとどけたほうがいいんじゃないかとかんがはじめた。
 そのとき、バシャッとちいさなみずおとがした。
 よくそう──をやったしゅんかん、そのふちにごつごつしたかたまりふたあらわれて、ヒッとこえた。にごったみずがって、しろくくずれて、そとにあふれる。そのなかからすごいいきおいで、みずしぶきとともになにかがしてきた。
「うわ!」
 ちかくにいたミノルくんはびのいてしりもちをつき、ぼくはくした。
 にんげんの、しかも大人おとなだった。よくそうなかで、Tシャツからにごったみずをしたたらせ、かおなんもぬぐいながら、おおきくかたいきをしている。しばらくそうしたあとで、ゆっくりぼくたちのほういた。
「サエコにしんせつにしてくれて、ありがとう。」
 ぼくらはからず、ただその姿すがたていた。
「あ、ごめんごめん。」とあいつづけた。「ぼくが、あいつのってたおにいちゃんだよ。」
「あっ。」とミノルくんがべたからう。「さっきのがあなたのいもうと──。」
「めいっだけどね。」
「え、じゃあ。」とぼくもおそるおそるくちひらいた。「かくれんぼしてて、そこにかくれたってことですか......?」
「そうだよ。きみたちも大人おとなになったらまねするといい。」
 かるくびってから「ふくたままですよね?」としつもんつづける。
たらかるだろ。」
なんで、そこまでするんですか......?」
ほんでやらなきゃおもしろくないからね。けっこうたいへんなんだよ。みずんでるからわざとそこどろをまいげたり、はなくちだけしていきったり、きみたちがそんなところまるからそれもできなくなったり。」
 ザバリとよくそうからがると、はだしだった。Tシャツとハーフパンツをしぼって、はなれたところにあるかぶあるいていく。スマホやサンダルがいてあった。
「こういうヒントはしてるんだけどね。」
 このにはとてつもなくへんひとがいるものだ。ようやくがったミノルくんのはなあながふくらんでいるのをてしまった。
あそびはルールをきちんとめたうえでたのしむものだ。ただ、めるまでもなくぜったいまもるべきルールがある。」
 そこでことれたので、ぼくはいた。
なんですか?」
ひとめいわくをかけない。」
「でも。」とおもわずぼくはった。「このみずをためてたひとには、めいわくだとおもいます。」
ちゃくがんてんはすばらしい。けど、ここはうちのはたけなんだ。」
 かえこともないぼくに、あいたからかなこえつづけた。
きていれば、ひとめいわくをかけてしまうことなんていくらでもある。それはたがいにゆるったりささったりすればいい。だからこそ、あそんでるときぐらいはそうならないれんしゅうをしておこうってのが、ぼくのしんじょうなのさ。」
「おにいさん!」
 とつぜん、ぼくのみみもとでミノルくんのおおごえひびいた。
「おれたちとも、かくれんぼしてください!」


 それから、さんにんでサエコちゃんのいるだんにもどった。
「サエコにしんせつにしてくれたおれいだ。」
 そうってから、おにいさんはたんたんとかくれんぼのルールをせつめいした。はんはUこうえんしきない。サエコちゃんをいえおくってえやしょくもするから、いちかんじゅうじっぷんこうえんみなみもんしゅうごう。おにいさんがこうえんはいったあといちにぼくたちがこうえんはいる。
「こちらはかくれしょえない。おおきなどうはしないとったほうがただしいかな。で、そのぼくにかって『ぃつけた。』としんてきったしゅんかんきみたちのちだ。かくれんぼはしゅうりょうばなしせずそくかいさん。いや、かくにんのために『まいりました。』ぐらいはこちらもしんてきおう。それでおしまい。どうだい?」
かりました。」とぼくらはった。
つからないあいせいげんかんゆうがた。チャイムがはじめたしゅんかん、ぼくのち。ふたたみなみもんしゅうごうだ。」
 こんなにほんかくてきなかくれんぼははじめてで、ぼくもさすがにわくわくしてきた。
「それから、ぜったいのルールがひとつ──。」
 ぼくたちはさんにんどうった。
ひとめいわくをかけない。」


 しろいポロシャツをたおにいさんがはいってからじっぷん、だいたいえんかたちをしたUこうえんを、みなみもんからぼくはみぎまわり、ミノルくんはひだりまわりにかれてさがした。なか芝生しばふひろにはかくれられないだろうから、ひがしがわにあるさんさくができるもりと、西にしがわきゅうけいじょとかトイレとかりょうかんとかたてものならんでいるあたりがあやしい。
 きたにあるちいさないけで、ていしていたにミノルくんとったときには、しらみつぶしにさがしたせいで、すごくつかれていた。いけにはショウブがいっぱいえていて、みずもにごっているかんじだ。つうならにもめないけど、ぼくたちはかおわせた。まさかとおもったけど、ミノルくんが〈いけはいるな〉のふだつけて、やっとあんしんした。
 ぼくたちは、やみくもにさがすよりめいわくになることをつぶしていくほうが、おにいさんにちかづけるんじゃないかとかんがはじめた。ちょうどすぐそばにこうえんマップがあった。きんしょはいるのはめいわく。トイレにてこもるのはめいわく芝生しばふあなるのもめいわくゆうエリアに大人おとなはいるのはめいわくみょうだから、二人ふたりってみた。あそんでいるおおいし、ゆうなかにもたらなかった。
 それから、いろんなしょめいわくについてかんがえながら、二人ふたりこうえんいっしゅうした。ひろいから、さんと、どんどんかんぎていって、ぼくたちはまたいけにもどってきた。ところさえおもいつかず、ベンチにぼんやりすわっているだけ。やっぱり、あのひとにはかなわないんだろうか。あきらめかけたとき、マップのひとつのしょきゅうについた。ぼくはミノルくんにった。
「おにいさん、こうえんしきないってってたよね?」
 西にしがわちいさなりょうかんゆびす。まちれきとかむかしらしとかをしょうかいしているところだ。そのなかには、さいしょミノルくんもはいらなかった。
「このなかも、しきないじゃない?」
「でも、あそこにかくれてたらめいわくかかるよ。」
「でもさ。」とぼくはかえした。「このかくれんぼって、さいに『ぃつけた。』ってうだけでわりなんだよ。しんてきとかばなしをしないとかへんなルールだとおもったけど、なかつけてもめいわくにならないようにしたのかも。」
たしかに。」とうなってから、ミノルくんは「でもだめだ。」とった。「あそこ、はいるのにおかねかかるもん。どもはタダだけど。」
「だからだよ!」ぼくはこうふんしてさけんだ。「おにいさん、ひとめいわくはかけないってったよね。」
「ていうか、そればっかり──。」
「たぶん、どももおかねがかかるんだったらあのひとはここにかくれようとはしないよ。ぼくらにおかね使つかわせるのはめいわくだから。でも、ぶんがおかねはらうのは、ぶんふくがびしょぬれになるのといっしょだからいいんだ。ひとめいわくはかけてないから。」
 ミノルくんのかおいっかがやいた。
「おれたちも、けんがくもくてきなかはいろう!」
 西にしかっていちもくさんはしっていくミノルくんをいかける。こくはもう、さんじっぷんまわっていた。


 ふるめかしいりょうかんぐちで、はしりからあるきにえる。うけつけおくこんいろふく眼鏡めがねひとえたけど、はいってきたのがぼくたちどもだとかるときょうなさそうにしたいた。だいじょうだ。
 なかはしんとしていた。ガラスケースのならんだ部屋へやけいこうとうたよりない。ほねとかとかのてんすすみながら、おくのさらにうすぐら部屋へやだとうなずきう。そこには、むかしのうようさいげんされている。かためられたつちみたいなゆかは、がいあしおとひびいた。なかいえいちめこまれたかんじで、かべいている。よこに〈はいってみよう〉のがみ
 をかけると、ちょっとしかひらかない。なにかがっかかっているかんじだ。
ぜったいこのなかだ。」とミノルくんはうれしそうだ。
 めきるのはめいわくもしたけど、もしなかにいるとしたら、ぼくらがてあせっているのかも。をガタガタさせながら、いよいよだというかんじがした。
「ここであそんじゃいけないよ。」
 とつぜんひくこえにはっとしてく。ぐちひとっていた。こうののほうがあかるくてよくえないけど、うけつけにいたりょうかんひとだ。
「いや、あの──。」
 くちごもるミノルくんのわりにった。
けんがくしたいんですけど、ひらかないんです。」
「え?」とりょうかんひとった。「そこは、そもそもめてないはずだけど。」
「もしかして。」とミノルくんがった。「だれかがじこもってるのかも。」
「そんなことはないとおもうよ。」りょうかんひとわらいながらかいちゅうでんとうをつけた。「このかんになるとほんとうくらくて、もうわけないね。」
 まぶしくて、らされたける。あしおとひびく。
「どれ。」大人おとなちからをこめても、ひらかなかった。「はんたいがわなにかあるな。」
 りょうかんひときんぞくせいじょうみたいなものをして、のすきしこんだ。それをなんじょうさせると、なかなにかがはじきばされるようなおとがしてひらいた。するりとなかはいったとおもったら、すぐにこえがした。
「ははあ、だれかがめちゃったひょうそうようたおれて、ほうきがつっかいぼうになっちゃったんだ。」
 ミノルくんはせつめいそっちのけで、のすきからなかをのぞきようとしていた。
「ちょっときみ、こっちがるからあわてないで。」
「あ、すみません。」
「あと、なかてんぶつにはさわらないように。」
 ミノルくんがいちおうへんをしながらわるようになかはいっていくと、りょうかんひとのためいきこえた。
「ごめんなさい。」ぼくはあたまげてあやまった。
「いやいや。」そのこえにとげはなかった。「こちらこそめいわくをかけてすまなかったね。あんまりかんはないけど、ゆっくりけんがくしていって。それじゃ。」
 ぼくがすこしほっとした、そのときだった。
ぃつけた。」
 さらにうすぐらぐちおくから、ささやくようなミノルくんのこえがした。
 あわててはいろうとしておどろいた。のすぐそばにミノルくんがいて、こっちをいていたからだ。でも、ぼくのことはていなかった。そのするどがんこうなにかをすように、ぼくのうしろにまっすぐのびていた。
「『めいわく』。」ミノルくんはこえをひそめたままった。「そのことでやっとづきました。」
 すこしして、「まいりました。」とちいさなこえひびいた。

のりしろゆうすけ

さっちょしょに「たびするれんしゅう」「パパイヤ・ママイヤ」「それはまこと」などがある。

読み物一覧へ戻る

page top